ルドンはお好きですか?〜by中尾陽一

 

5月のアートレクチャー、中尾先生と「オディロン・ルドン」について白熱しました。

ルドンは、東京丸の内の三菱一号館美術館で先日まで展覧会が開催されていました。今回はそれを観た参加者の方々もいらして、中尾先生といつもに増してワイワイと、一人の画家ルドンをめぐる2時間半。

中尾陽一 絵画鑑賞白熱講座 

 

まずはいつものように、ルドンの作品をスライドでざっと観ます。そしてルドンの生い立ちを追いながら、作風の変化や主題に目を向け、鑑賞のポイントへと進みます。

 

中尾陽一 絵画鑑賞白熱講座 

 

「ルドン、どう思われますか? まずは、好きですか?」

 

シンプルだけれど、先生からのこの問い、私はいつもとても大事に思っています。

好きか嫌いかと、よくできた名作か否か、は別問題。でも、頭の知識に問うのではない、どう感じるか?に直球が飛んでくるのを、まずハートで受け止める。それは大人になった私たちには、大切。

どう考えるか? ではなく どう感じるか?

 

ルドンは、時代的には印象派の画家たちと同世代の1840年生まれです。モネ、ルノワール、セザンヌ・・・ほぼ同級生ですが、ルドンは印象派の画家たちのように、目の前にある風景、自然を主観的にあるがまま描くのではなく、想像力を喚起する絵を描きました。

オディロン・ルドンは、フランス南西部のボルドー生まれ。生後二日目に里子に出され、荒地と呼ばれるペイルルバードで11歳まで過ごしました。ペイルルバードは、もともと海底が隆起して出来た土地であるがゆえ、山はなく、低木が目立つ寂しく侘しい田舎でした。ルドンは、ペイルルバードの空を見上げては、その刻々と変化する大空と戯れる孤独な少年時代を送り、その後絵を描くようになります。50歳くらいまで、色は使わず、モノクロで目に見えないものを描き続けました。彼自身の家族ができるまでのルドンにとって、黒という色は至上のものでした。

 

「黒を尊重せねばならない。何ものも黒を汚すことはできない。黒は目を喜ばせないし、いかなる官能も呼び起こさない。黒は最も本質的な色である。それはパレットやプリズムの美しい色彩よりもはるかに優れた、精神の代理人なのである」

 

その後ルドンは「私は色彩と結婚した」と書き残すほどに、パステルで色の美しい作品を生みました。それでも一貫していたのは、目の前に見えることだけがリアリティではない、見えないものを描くということ。目を閉じても見える世界を描きました。このように、自然主義的で色鮮やかな印象派とは対局にありましたが、思想や目に見えないものを描いた点ではゴーギャンと同じ姿勢、そしてナビ派の若い画家たちから慕われたルドンでした。

 

ルドンは、本当に素直だと思います。ちょっとかわいそうな少年時代を思うと、内向きな性格と表現形態は然もありなん。そしてその後の色への変化がとても正直。モノクロを突き詰め、至った色の世界。「ここだけの話なのですが、それは(黒のこと)私をクタクタにさせるのです。(中略)この柔和な素材(パステルのこと)のおかげで私はくつろぎ、楽しい気分になります」こんなふうに、黒とのサヨナラを素直に書いています。

 

今月の中尾流は、活発に意見が交差して皆さん素晴らしかったのですが、私が後ろで聞いていて印象的だったのは、中尾先生。先生は皆さんのナビゲーターとして、全体を見ながらさりげなく全員を引き連れてゆっくり進んでいくのですが、美術には一つの正解があるわけではないので、当然、どこか1点に向かって進んではいないのです。ですが、最後は結論のように一つの見方に収まりやすい。でも、まず中尾先生は結論を急がない。ルドンのような画家は、ちょっと見ると見方を決めやすいのですが、先生の解説を聞いたり、促されて発言する人の言葉と先生の言葉が重なるうちに、最初の印象に揺らぎが生まれます。先生は、せっかちにまとめたり、一つの結論に向かおうとしない。

これが、「分からない」でおく、中尾先生の基本の構え方なんだなぁと感じました。中尾流がこんなに自由でゆったりしているのは、そういうわけなのか〜♪

 

さて、来月は皆さんご存知の「モディリアーニ」です。今月半ば、ニューヨークの競売会社サザビーズで史上最高落札額172億円で作品が売却されたモディリアーニ。中尾流では、自身も画家だったパートナーのジャンヌ・エピュテルヌにも触れながら、この夭折の画家を見ていきます。先生のご案内文が届きましたら、またお知らせしますね。ぜひご一緒しましょ〜嗚呼、アートは楽し。

 

中尾陽一 絵画鑑賞白熱講座 

おやつ。

 

*知性も感性もフルに使って楽しもう!中尾流〜♪

2018年6月24日(日) 13時〜15時30分

〜これまで誰も教えてくれなかった〜絵画鑑賞白熱講座「モディリアーニ」

 

お申し込みは、こちらからどうぞ→