私の好きなもの

真理の探究のことをジャーナルに書きましたが、それは父の影響だとずっと思っていました。なぜならば、私の父は哲学を大学で教えていたから。それに私は父親っ子だと思い込んでいましたから。

でも、ふと思い出すと、私は父の母である祖母に大きな影響を受けていて、もしかしておばあちゃんっ子なんじゃない?

*漆芸家 伊藤町子さんのオブジェ

私の祖母は、明治生まれで大正モガ(モダンガール)。神戸で英語の先生をしていました。祖父は早くに亡くなり、夫に先立たれた祖母は英語を使ってなかなか苦労しながら子供たち(父たち)を育て上げました。私が子供の頃には同じ敷地にある別々の小さな家に住んでいて、私は祖母の家に入り浸っていました。

祖母はハイカラさんだから、朝食にはポットに紅茶を入れて、スクランブルエッグやトーストなどを食べていました。祖母の家は、朝食のしあわせな香りがしました。そして、いつもテーブルには綺麗な模様の紙ナプキンが置いてありました。

そして祖母は、裕福ではないけれど自分の好きなものを身の回りに置いていました。高価なものとか、有名なものとかではなく、ちょっと洒落ていて、ちょっと外国の匂いがするようなささやかなもの。何を自分が好きか嫌いか、どんな日々を送りたいか、ハッキリした人でした。

*イギリス在住の現代美術作家 滑川由夏さんのブロンズ作品

今になって私は、その祖母の「私の好きなもの」と暮らす暮らし方をベースに若い時からものを選んだり、見たり、欲しがったりして来たのだと感じます。

私がいいなと思っている陶器やアート作品は「私の好きなもの」です。投機の対象になるような美術品ではなく、部屋の中に置いて日々暮らしているとだんだんとその存在が存在感を増していくような、でも大声で自己主張しているわけでもなく、いい塩梅で仲良く暮らせる、そんな品々です。それを見ていると散歩をしている時のようにさまざまな考えが浮かんだり整理できたりする、そんな好きなものを身近に置いて暮らす豊かさは、祖母から教わったのだなぁと最近思います。

*オブジェも素敵な中里浩子さんの碗

きっとみなさんにもそういうものやことがあるんじゃないかな。断捨離もいいけど、好きなものならば部屋にいっぱいものがあっても窮屈ではありませんよね。

私は特に、人の手が作り出した「私の好きなもの」と一緒に暮らす楽しみをこれからもずっとお伝えしたいなぁと思っています。オブジェも絵も陶器も! そしてそんなことからいろいろ語り合える場を、作っていこうって思っています。

*南伊豆の陶芸家 武田武人さんのうつわ

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