音を聴くこと

 

プロトマニアの荒川陽子です。

空のお茶会という部活みたいなお話会をやっていますが、そこでは最初に一つの本をその場にいる全員が順番に声に出して読みます。たいていは初めて読む文章だから、みんな新鮮に読みます。いきなり本番だから、意図的な抑揚をつけたり、意味や感情を込めたりせず、自然とただ読むことになるのです。音は、ただ読み手の声。だから、ただ言葉が届くのがいいところ。言葉はただ届くけれど、読む人それぞれの声に何か音の心地よさがあります。朗読が巧くなくても、一人一人の音が、聴いていて気持ち良かったり、ほっとしたりします。

ヨーロッパの国々には、誰でも弾いて良いピアノが置いてある駅があって、通りがかりの人が代わる代わる演奏するそうです。そんなテレビ番組を見ました。弾くのは、旅人のこともあれば、その街の労働者のこともあり、プロの音楽家のこともあります。どの人もピアノを弾いている時は集中していて、無心に見えます。演奏が終わった後に話を聞くと、ピアノを弾く束の間の時間が喜びだったり、何かや誰かに思いを込めていたり、ただ愉しんでいたり様々でした。ピアノの前に座った人たちは皆、そこが駅の中であることは忘れて、ピアノと二人きりのように音に浸っていました。

私が仕事をしている街にも、駅の改札を入ったところにアップライトピアノが置かれたことがありました。駅前を通ると、改札口の奥から生のピアノの音が聴こえてきて、びっくりしたものです。何かの撮影かと思うほど、プロ並みの演奏をする人もいて、その時々でクラシックからアニメソング、ジャズまで聴くことができました。この駅ピアノは期間限定だったようで、いつの間にかピアノは姿を消していました。そんな素敵な企画をしたのは電鉄会社。文化的な活動に力を入れている会社でした。

普段通り過ぎるだけの駅にピアノがあって、素晴らしい演奏がタダで!聴けるというのは、なんとも心豊かになるものだなぁと思いました。

音の力って、すごいですね。疲れた心に寄り添い、しぼんだ気持ちを励まし、嬉しい気持ちに共感してくれる。乱暴な言い方をついしてしまったり、感情のまま大声を出すと、それはホンモノのパンチみたいになって届いてしまうこともあります。優しい気持ちで話したら、それはきっと伝わります。人に話す時の自分の声、ちょっと意識して気をつけてみたくなりました。