道草こそ、道をいちばんよく知るという立場。

 

 

河合 なるほど。いい話を聞いたなぁ。ちょっと話が飛ぶみたいですけど、僕は最近、漱石の『道草』(岩波文庫)をまた読み返したんです。それですごく感激したんですけど、これこそやはり自己実現の道を歩んでいると。つまり、ごく当たり前の話が書いてあるんだけど、それをずっと見ている目があるでしょ。

中沢 そうそう。

河合 自己実現の「道」というけれども、その道を本当に味わっている人は、僕は道草をくっている人だと思うんです。道草をくわずにまっしぐらに自己実現しようと思うと、現実生活には帰ってこられない。漱石というのは、やはりこの世に生きているでしょ。ですから、あれはやっぱりすごい作品だなと。ミシンを踏んだりしているとかいう今の話を聞いても、そう思うんですよね。

中沢 僕なんか、ずっと道草をくっているようなものですからね。

河合 道草こそ、道をいちばんよく知るという立場なんです。道草をくっていない人は道のことなんか思っていないんですよ。目的だけを思っているんです。道草をする人は、道草を楽しんだり苦しんだりしているわけですから。

中沢 僕は河合先生を見ていていつも思うんでるけど、こういう性格の人はファンだメンタリストには絶対にならないと思うんです。

河合 なりようがない(笑)。

中沢 自己実現という目標を立ててそこに向かってまっしぐらに行ってしまう人というのは、ファンだメンタリストになるんです。

河合 ああ、そうですね。僕らはミチクサイストというのかな(笑)。

中沢 チベットの密教というのも、ある意味で宗教を否定するんです。信仰も否定してしまうんですね。そういうのは嘘だと。僕は宗教学とか宗教のことをやっているけれども、宗教家とか宗教の団体に入ってしまった人のところには絶対には入れないんですね。ああいう生き方を勉強してしまったということもありますし、パシュラールみたいに、パイをこねながら哲学している人が昔から理想だったんですね。あれも道草の哲学なんです。

 

「ブッダの夢 河合隼雄と中沢新一の対話」汎神論風夢理論のこね方  夢は道草 P230〜より抜粋  河合隼雄 中沢新一  朝日文庫 

 

遠くの仲良しが送ってくれた6/17の満月。月明りの道。

 

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1 comment

  1. 宮島さん、コメントありがとうございます!

    私が読めるのですが、なぜかサイトに承認されて反映できない〜

    今しばらくお待ちくださいね。

    いいね

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